常陸大宮市で頑張る農家さんにインタビューVol.5 たつのくち農園・石井拓真さん

春になると一列に並ぶ桜が見事に綺麗に咲く、辰ノ口親水公園。
そんな場所のすぐ側で、2021年冬、いちご農家として就農した、
たつのくち農園の石井拓真(いしいたくま)さん。

石井さんの栽培するいちご(いばらキッス)は甘くて美味しいと
口コミを通じて広がっています。

そんな石井さんに、
農業と出会った高校時代から就農するまで苦労など
様々なお話を伺いました。

話を聞いた人:石井拓真さん

石井拓真さんのプロフィール
1998年3月24日生まれ。茨城県大子町出身。
高校、大学で農業を学び、
2年の研修を経て
2021年12月、いちご農家として就農。
現在は「いばらキッス」と「エンジェル・エイト」を育てている。

★たつのくち農園の詳細やSNSは以下より★

直売所:常陸大宮市辰ノ口1347-2(辰ノ口親水公園すぐ側)
インスタグラム:たつのくち農園

動物が好きだった高校時代。農業研究部での活動を通して知る、農業の面白さ

――2021年に就農されたと伺いました。お若いですが、学生時代から農業の道に進もうと決めていたのでしょうか。

水戸農業高校出身なのですが、最初の頃は動物が好きで、動物関係の畜産科に所属していました。
高校の部活動で、農業研究部(農研部)というのがあって、そこで活動をしていて。
農研部の主な活動が、自分たちの手で作った野菜をスーパーなどに売りに行くというものなんです。
その活動を通して、その野菜を「美味しかったよ」って購入したお客さんから直接言ってもらえて。
あ、農業って、お客さんの声がダイレクトに返ってくるんだって。
そういうのってとてもやりがいを感じるというか。
それで、高校2年生の時に、農業をやろう、農業で生計を立てようと決めました。

――石井さんの農業の原点は、高校の部活動なのですね。農業をやりたいということは、大学でも農業について学んだということでしょうか。

そうですね、原点は部活動ですね。
農業で、何をやろうかと考えたとき、最初の頃は、ぶどうかいちごが良いなと思ってました。
果樹を学ぶにあたって、特にぶどうは、先生が揃っていることもあって、県立農大への進学を決めました。
ただとても運が悪く、農大に入って1か月くらいで、バイクで事故を起こしてしまったんです。
半年ほど入院になってしまって。
回復してやっと授業に戻ったら、ぶどう農園での研修枠が空いていなくて。
本当にショックでしたよ。空いている研修先がりんごや梨で、
選べるような立場でもなかったので、梨農園に行くことになりました。
ただやっぱりぶどうがやりたいって思ってたので、担当の先生に相談したんです。
そしたら、先生の繋がりで、常陸太田市の「椎名マルカツぶどう園」さんで有難いことに研修させていただくことになりました。

――なるほど。ぶどう農園での研修後は、すぐに就農しなかったということでしょうか。

そうですね。研修した後も、事故で痛めた足の調子が悪くて。
このまま本当に就農できるのかとか、本当に自分がやりたいことって何なんだろうってとても悩んだんです。
そのことをぶどう農園さんに相談したら、そんなに悩んでるなら、1年くらいうちで仕事したら?
それからでも遅くないと思うよと言っていただいて。
それから、1年間は、ぶどう農園さんで働かせてもらうことになりました。

事故の後遺症、就農への不安。
”自分が本当にやりたいこと”を考えた、ぶどう農園での1年

――ぶどう農園で働きながら、いちごを育てたいと思った理由は何でしょうか。

ぶどう農園さんで働かせてもらっていた期間は、
自分が本当にやりたいことを考える時間でもありました。
その中で、そういえば、いちごもやりたかったことを思い出しました。
それで、茨城県内のいちご屋さんを色々と見学しました。
ぶどうだったら、皮ごと食べられるシャインマスカットが流行ったと思います。
それが流行った理由って、そのまま食べられるところかなと自分は思ったんです。
ぶどう農園で働いているときに、
お客さんが皮を剥かないと食べられませんか?とか
皮を剥かずに食べられるシャインマスカットありますか?
ってよく質問されてたんですね。
皮を剥いたり、調理したり、そういうのって若い人は特に面倒と思うことが多いと思うんです。
だから、そのまま食べられる、そのままの味を楽しんでもらえるものがいいなと感じて、
いちごを育てたいと思うようになりました。

▲石井さんが現在、手間暇かけて育てる「いばらキッス」

――そのままの味を楽しめるって良いですよね!いちごの研修先とはどのようにして出会いましたか。

働いていたぶどう農園さんに、やっぱりいちごをやりたいですと相談しました。
最初は常陸太田市のいちご農家さんを紹介してもらって。
でも自分は既に、常陸大宮市に親戚の空いている家があって、そこで暮らしてて。
それならと、常陸大宮市の農業改良普及センターに行ってみたらと教えていただきました。
普及センターに相談する中で、つづく農園の都竹さんをご紹介していただいて。
都竹さんのところで研修をすることになりました。

いちご農家として独立するために。無我夢中でいちごと向き合った、研修先での2年

――研修が始まり、一番最初はどのような作業をしましたか。

2019年3月から研修が始まったのですが、ちょうどいちごのシーズン、収穫どきで。
まずは、都竹さんのところで働いているパートさんと
同じくらいのレベルになろうとひたすら収穫をしました。
その他にも、いちごの葉っぱを取ったり、温度管理をしたり、とにかく毎日必死だったんです。
基本的にカリキュラムのようなものはありません。
もちろん教えていただくことも沢山ありますが、
相手任せではなく、自分から分からないところは聞くといったスタイルです。

――なるほど。自然と身体で覚えていくといった形でしょうか。

そうですね。
いちご以外もそうだと思うのですが、何かテキストを読んで全てが分かるというものではないと思います。
実際に触ってみたり、色を見てみたり。
ビニールハウスの温度も、もちろん温度計を見ながら作業しますが、
身体でも感じて、大体このくらいの温度なんだと、毎日、毎日繰り返し作業します。
そうすると、いつからか、ビニールハウスに入れば温度計を見なくても、
大体の温度が分かるようになってくるんですよ。

――そうなのですね。研修をする中で、最初の頃と後半での難しさの違いはありますか。

そういった作業を毎日する中で、経験と感覚が積み重なって
2年目の時には、都竹さんに都度質問しなくても、
例えばビニールハウスの管理といったこともできるようになりました。
ただ後半になるにつれて、そういった実務的なところよりも、
どこの土地を借りるか、資材をどこで購入するか、ビニールハウスの構造をどうするか
といった就農に向けての準備に対する不安が大きくなりました。
研修しながら、他の農家さんのビニールハウスを見に行かせてもらったりと、
研修を始めた頃とはまた違った難しさでしたね。

――就農に対する不安が大きかったのですね。このビニールハウスは建設までどのくらいかかりましたか。

2021年3月から11月くらいまで建設作業をしていました。結構遅れ気味で。
基本的に2人で作業していたのですが、ここの土地って少し掘ると砂利が出てきてしまい、
ビニールハウスのパイプがびっくりするくらい刺さっていかないんですよ。

▲石井さんと仲間で取り組んだ、ビニールハウスの建設。
2021年4月頃の様子(画像提供:石井拓真さん)

▲一日かけて、夕方に上まで
ビニールハウスの核となるパイプを繋げる作業を行う
(画像提供:石井拓真さん)

完成した時は、本当に嬉しくて、素直にやっとできた!完成した!!って喜びました。

▲取材に訪れた際のたつのくち農園のビニールハウス

――砂利が多く苦労したということですが、それでもこの土地が良いと思ったのは何故ですか。

紹介してもらって出会った土地なのですが、ちょうど良い広さと家が付いていて。
最初の頃は、大量の草ばかりで何があるか分からないようなところでしたが、
ちょうど春になると桜に挟まれる、そんな場所でなんです。
まだ決まっていなかったのに、何回もここに通いました。
ここだ、ここしかないって直感的に思ったのが一番の理由ですね。

▲2021年4月頃のたつのくち農園周辺の様子。
辰ノ口親水公園の桜堤が楽しめる場所(画像提供:石井拓真さん)

自分が本当に美味しいと思う「いちご(いばらキッス)」を届けるために

――いちごにも様々な品種がありますが、その中でも「いばらキッス」を選んだ理由はありますか。

いちごならどれでもいいというわけではなくて。
都竹さんのところで研修をした際に、もちろんどれも美味しいのですが、
本当に美味しいと思ったのが「いばらキッス」でした。
やっぱり、自分が一番美味しいと思ったものをお客さんに届けたくて。
今は「いばらキッス」オンリーくらいの気持ちで取り組んでいます。
そのほかに「エンジェル・エイト」も育ててはいますが、
今はまず美味しい「いばらキッス」を提供し続けることが一番の目標です。

▲口コミを通して広がった、
美味しいと評判の石井さんの「いばらキッス」

――素敵ですね!「いばらキッス」を育てる上で心がけていることはありますか。

いちごは大体、1月~5月が期間ですが、やっぱり長いですよね。
その期間中、自分が納得するレベルの味を一定に保つ、
収穫量を安定させて、切らさず道の駅かわプラザに出す、ということを心がけています。
段々と温かくなってくると、管理の仕方も変わってくるので、
その時の環境や気温の変化にしっかり対応できるようにしています。
やっぱり研修の時に教えてもらったことをそのままやっていても駄目なので、
この土地に合ったいちごの育て方なども考えながら取り組んでいます。

▲たつのくち農園直売所内で石井さんとパートさんが毎日、
いちごのパック詰め作業を行っている。

 

――毎日丁寧にいちごと向き合っているのですね。「いばらキッス」を初めて道の駅へ出したのはいつですか。

初めて道の駅に出したのは、2021年12月23日です。
まずは自分の名前だけでも知ってもらおうと思って、
準備できたいちごは全部、道の駅に持っていきました。
ライバルがいなかったのもあると思うのですが、出したものは全部売れたんです。
自分がここで、いちごを販売できる日が来るとは思ってもいなかったし
更にはその場所で出したものが全部売れて、本当に嬉しかったです。
きっとこの日のことは、ずっと忘れないと思います。

若い人たちに農業の良さを知ってもらう活動がしたい!

――若手農家として、今後の夢や取り組んでみたいことなどあれば教えてください。

最初にも少しお話をしましたが、自分は高校も大学も農業系なので、
農業をやりたいと思って、企業に就職もせずに、農業の世界に飛び込みました。
たまたま農家になるという人も多い中で、
自分みたいな人がもっと増えたら嬉しいです。
今後は、若い人たちに農業の良さを知ってもらう活動もしたいですし、
常陸大宮市にもっと、いちご農家になりたいと思う人が来てくれれば、
常陸大宮市もいちご農家ももっと盛り上がると思います。
具体的なことはまだ思い浮かんでいませんが、自分もいちご農家として、
何かできればいいなと思っています。

▲直売所で買える石井さんの「いばらキッス」
(お徳用小粒1パック600円、2L1パック550円、A品1パック600円)

――就農する若い人たちが常陸大宮市に増えていくと良いですね!この度はお忙しいところ、インタビューを引き受けてくださり、誠にありがとうございました。

 

取材・文・写真 谷部 文香
インタビューサポート 雅農園 海野 雅俊さん

たつのくち農園・石井拓真さんへのインタビューを終えて

▲2022年2月25日(金)午後インタビュー取材の様子、
インタビューを受けるのは初めてという石井さんに1時間ほどお話を伺いました。

まだまだ寒さの残る2月下旬、
たつのくち農園のビニールハウスにてインタビューをさせていただきました。

石井さんには、インタビュー取材の以前にも何度かお会いする機会があったのですが、
しっかりとお話をさせていただいたのは、この日が初めて。

人生で初めてのインタビュー取材だったという石井さん。
話そうと思っていたことを頭で整理したつもりだったのに、
上手く伝えられなかったかもとおっしゃり、
心配そうな表情をされていましたが、
就農するまで紆余曲折ありつつも、
農業をやるんだ、農業で生計を立てるんだという軸は、
ずっとぶれていないということがしっかりと伝わってきました。

この場をお借りして、この度はお忙しいところ、インタビューを引き受けてくださり、誠にありがとうございました。

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