常陸大宮市で頑張る農家さんにインタビュー!Vol.1 あさねぼう・笹島具視さん

ミュージシャンを目指し、東京で生活をしていたものの、志半ばで帰郷。
そんな人生の迷走期に農業という新たな道に出会う。

茨城県常陸大宮市の静かな山間で、ポピュラーな野菜から西洋系の野菜まで幅広く生産されている笹島具視(ささじまともみ)さん。穏やかな雰囲気の中にも、農業に対する熱い想いを感じました。

そんな笹島さんに、就農したきっかけ、栽培におけるこだわり、今後の夢など、様々なお話を伺いました。

話を聞いた人:笹島具視さん

笹島具視さんのプロフィール
1967年1月20日生まれ。
ミュージシャンを目指して30歳まで東京で音楽活動を行うも、耳の病気により帰郷。
ご両親の畑の手伝いやアルバイトをしながら、2011年より本格的に農業に携わる。
現在はポピュラーな野菜から西洋野菜まで幅広く生産される。
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迷走期に出会った農業という光。そこから始まった農園「あさねぼう」

ー常陸大宮市で農業を始めたきっかけ、これまでの経緯を教えていただけますか?

もともと父は農協勤めで、祖母は農業をしていました。子どもの頃は、その畑を手伝っていて。
だけど、一時期、ミュージシャンを目指して東京に行っていました。
音楽活動をしていたのですが、突発性難聴のような耳の病気になってしまって。30歳のときに帰ってきました。
戻ってきたころは、両親がトルコキキョウ(※1)を作っているので、その手伝いをしたり。
トルコキキョウは4月~6月なので、それ以外はアルバイトに行ったり、トラックドライバーをやってみたり。
働きながら、なんだろうこれって。今後どうしようかって。

そんなときにうちの畑空いてるよねという話になって。
父の農協関係の方から、ナスの苗が300個余ってるという話を聞いて、それならナスを作ってみようかということになったんです。
準備を始めたのが震災のあった2011年。
まだ余震の多い4月近くだったから、大丈夫かなと不安になりながらの準備でした。


▲ナスの畑。就農するきっかけとなったナスは今でも夏場のメインの野菜

(※1)草丈20cmから120cmくらいの色とりどりの花を咲かせるリンドウ科の植物

ー偶然にもナスが余ったことが始まりだったんですね。

そうなんです。
個人的には音楽をやりたかったので、病気で帰ってくるという少しモヤモヤした中で。
音楽ができない、どうしようかという迷走のときでした。
でも、そういうご縁があったので、年齢的にも40歳を過ぎていましたし、
これは農業始めてもちょうど良いんじゃないかって。
そんな風に思えました。
その翌年もナスの苗300本を育てて、今でもナスは夏場のメインの野菜です。


▲栽培中のナス

屋号に自分の名前は入れたくなかった。その理由とは

ー屋号はどのようにして決めましたか?

就農し屋号を決めようとしたとき、自分の名前は絶対に入れたくなかったんです。
ゆくゆくは法人化したいという想いがあるので、例えば私だったら笹島農園と仮に付けたとしたら、
いつまで経っても笹島さんの野菜というイメージになるからです。
笹島さんが作ってないの?と言われてしまうんですよ。誰かしら他の人も作っていますから。

ーそういった想いがある中で「あさねぼう」にした理由はありますか?

全く関係のない名前を付けようと思いました。
それこそ最初は村八分にしようかと思っていました。
少し良い印象のないものにしたかったんです。
でも村八分はさすがに印象悪すぎるかなぁと思って(笑)。
何にしようかと考えていたときに思ったのは、
農家にとって、朝寝坊ってできないことだし、贅沢なことなんです。
その贅沢なことを屋号にするのは面白いのではないかと思いました。
農家にとって朝寝坊は、良い印象ではないけれど、村八分より可愛げもありますしね!

ポピュラーな野菜から変わり種まで育てる笹島さん。こだわりは土本来の力!

ー夏場のメインはナスだと思いますが、その他に、どんなものを生産されていますか?

大まかに分けると、ナス、ほうれん草、小松菜、ブロッコリー、レタスなどです。
ブロッコリーもスティックブロッコリー(※2)、レタスもオークレタス(※3)という変わったレタス、
普通のレタス、サニーレタスなどがあります。
年間だと30~40種類育てていますが、シーズンごとだと10種類くらいになりますね。
昔は多品目だったのですが、正直言って売れないものはやっぱり売れないんですよ。
作って無駄になるのは良くないですし、最近はフードロスとよく言われていますが、
売れないものを作って、いつも畑に残っていたらそれこそ、
ロスを作ることじゃないかと思っています。


▲スティックブロッコリー(画像提供:笹島具視さん)

(※2)茎の細いブロッコリー。茎ブロッコリー、スティックブロッコリー、スティック・セニョールなど様々な呼び方がある。柔らかく甘みのある茎と歯ざわりの良いつぼみ部分の両方を楽しめる野菜。
(※3)葉の形が深く切れ込んだもの。食感が柔らかく、サラダとして盛り付けたときにふんわりとボリュームがでて、色も濃いので見栄えが良い。

ーブログを拝見したところ、ケロッコ、エディブルフラワー、コールラビなど珍しい品種も育てていますよね。
その辺りのお話もお聞かせいただけますか?

ケロッコは、スティックブロッコリーとケール(※4)という野菜の組み合わせです。別名はアレッタと言います。
おそらくクックパッドのようなレシピサイトだと、アレッタという名前の方がメジャーだと思います。
2年前から栽培を始めて、絶対売れると、今でも押している野菜の一つです。
スティックブロッコリーを濃くしたような味で、凄く美味しいです。

エディブルフラワー(※5)は食べられる花です。これも意外と柱になるのではないかという想いがあって。
ちょうどこの秋、9月から10月にかけて、30坪のハウス内に種をまく予定です。
最初なのでポピュラーな品種だけを選んで作る予定です。
自分のブログにそのことを書いたら、飲食店の方からの反応が良かったです。

コールラビ(※6)は、8年から9年近く作っていて、植える年と植えない年があります。
カブとキャベツの掛け合わせのような野菜です。昔は緑色が殆どでしたが、今は紫などカラフルなものもあって、漬物にしても美味しいです。


▲笹島さんの畑の一部。ナスを中心に珍しい品種まで育てている。

(※4)キャベツやブロッコリーの原種で、独特の苦みがある。サラダや青汁の原料にも使用されることが多いスーパーフード。
(※5)Edibe(食べられる)Flower(花)の文字通り、食用花のことを指す。押し花タイプと自然乾燥タイプに分けられ、使い分けできる。
(※6)ドイツ語でコール(キャベツ)とラビ(カブ)という意味を持つ、キャベツの一種。キャベツの芯のように歯ごたえのある食感とほんのりとした甘みが特徴的。

ーその他に珍しい品種はありますか?

トレビス(※7)、フェンネル(※8)なども育てています。
少し前にブレイクしたのは、サボイキャベツという品種です。ちりめんキャベツとも言うのですが。
葉っぱがごわごわしていて一見堅そうに見えるのですが、ロールキャベツにして煮込むと柔らかくなって美味しいです。
一回このキャベツでロールキャベツを食べると、他のキャベツではもう食べられないというくらい美味しいんですよ。
普通のキャベツより育ちが遅いのですが、水分がしっかりあって、旨味もぎゅっとつまっています。

(※7)キク科の野菜。チコリの仲間であることや鮮やかな赤紫色の葉を持つことから、あかめチコリやレッドチコリとも呼ばれている。紫キャベツのような見た目だが、全くの別物で、ふんわり柔らかい食感と独特な苦みが特徴的。
(※8)別名ウイキョウとも呼ばれるハーブ。糸状に細かく裂けた明るいグリーンの葉を持ち、全体的に甘い独特な香りを持つ。

ー栽培におけるこだわりはありますか?

就農したときから、肥料だけに頼らない土本来の力にこだわって栽培しています。
例えばナスですが、早い人だと4月にパオパオという不織布をかけて栽培し、6月頃に販売します。
ですが、6月頃に出すものは、そんなに味がのってないんですよ。
ナスは夏の野菜なので、やっぱり季節感が合ってないんです。
なので、肥料をたくさんかけて育てるのではなく、土本来の力で育てるように、
根からしっかり栄養を吸収して、ゆっくり育てることで、旨味も徐々に入り、美味しいナスになるんです。

この育て方が特に合っているのは、キャベツですね。
旬の時期の1か月先に出たものは、水気が無くパサパサで、どうしても旨味がついてこないんです。
なので、ゆっくり育てたキャベツは、水分も旨味もギュっとつまって、美味しいんですよ。

多様化する販売方法と「やさいバス」の可能性

ー市内における販売場所、その他インターネット販売などはされていますか?

道の駅かわプラザは、オープンしたときからのオープニングメンバーとして、今でも販売しています。
その他、ヨークベニマル、水戸で月2回の朝市などをしています。
インターネットは食べチョクで販売しています。


▲水戸での朝市の様子(画像提供:笹島具視さん)

ー今後ここで販売したいといった希望はありますか?

既に利用はしているのですが、可能性を感じているのは、やさいバス(※9)です。
今の時期は、ナスを販売しているのですが、この間なんと愛知県のスーパーから注文が入ったんです。
こんなこともあるんだって思いました。
今のところ売り上げ的には微々たるものですが、
これからもっとやさいバスがメジャーになっていけば、面白いことが起きるのではないかと思っています。

(※9)生産者と購買者が「おいしいを共創する」ための青果流通のしくみ  https://vegibus.com/

ー市内の飲食店には提供していますか?

定期的に出すというよりは、希望があれば提供するという形です。
例えばフィレンツェナス(※10)という丸いナスがあるのですが、
これは市内で寿司屋を営業している後輩が使いたいと言ってくれて、提供しています。


▲丸い形が特徴のフィレンツェナス

(※10)イタリア・トスカーナ地方の伝統品種で、お腹のような形で実のしまった果肉が特徴。

ー今後市内の飲食店と何かやっていきたいことなどはありますか?

飲食店と何かというより、自分のお店を出したいという、たくらみがあります(笑)。
水戸でワイナリーを経営している知り合いがいるのですが、
そういうワインも提供するお店にしたいと思っていたり。
それを思い付いたのが去年、一昨年辺りなんです。
ただ今はコロナで飲食店も難しいというのと、時期も読めない。
自分の場合、畑仕事もあるので、すぐにはという感じです。
でも2~3年のうちにはやっていきたいと思っています。

フードロスをなくしたい!情報共有できる仕組み作りを

ー今後力を入れてやっていきたいことはありますか?

フードロスをなくしたいと思っています。
今の時期はナスを栽培しているのですが、やはり販売できないものもあって。
形が悪いだけで、食べられないってことはないんです。
それをたまに、幼稚園の方が持って行ってくれたりということもあるんですよ。
インターネット販売でも、購入してくれた方に少しおまけで、
そういう販売できないものをつけると、結構喜んでくれるんです。
なので少しでもロスを少なくしていきたいですし、
他の農家さんとフードロスの情報を共有できたらいいなとも思っています。

ー売り場に出せない割合は多いのでしょうか?

時と場合によります。
例えば今の時期のナスだったら、台風や強風で傷ついてしまうものがあります。
そうなると販売できない割合が圧倒的に多いです。
普段も2割弱くらいは出てしまいますね。

ーフードロスの情報を共有したいという農家さんは他にもいらっしゃいますか?

それが結構いるんですよ。
さっきの幼稚園の話じゃないですけど、老人ホームの方が欲しがってたりとか。
うちはナスしかないからと伝えると葉ものや根菜やってる人知らない?とか、そういう話は結構聞くので。
必ずしも形が良いものが絶対に良いとは限らないし、見た目が良くても悪くても味は変わらないということもあるんです。
販売するにあたっては、しっかりと見た目を整えるのが普通だと思うし、良いものを出したいという気持ちがあります。
繰り返しになりますが、その反面販売できないものも多いんです。
私を含め農家は販売できなかったものをどうにかしたいという気持ちが強いです。
それを少しでも良いので使ってくれるという
情報を共有できる仕組みがあればいいなと。農協と一緒にそういう仕組み作りもしていきたいですね。

ーフードロスの情報共有の仕組み作り、素敵ですね!本日はお忙しいところ、様々なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!

取材・文・写真 谷部文香
インタビューサポート 雅農園 海野雅俊さん

笹島具視さんへのインタビューを終えて


▲2021年9月2日(木)インタビュー取材の様子

雨がしとしとと降る中、終始にこやかに質問に答えてくださった笹島さん。
穏やかな表情の中にも農業に対する熱い想いが垣間見え、あっという間の1時間でした。
インタビューの最中によく言われていた言葉が「フードロス」。
少しでもロスをなくし、必要とされているところに届けていきたいという想いが伝わり、非常に心に残りました。

この場をお借りし、
改めまして第一回のインタビューを引き受けてくださり、誠にありがとうございました!

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