常陸大宮市で頑張る農家さんにインタビュー!Vol.3 コトコトファーム・古東篤さん

大学卒業後、ベトナム人材派遣会社に就職し、サラリーマンとして働いていた古東篤さん。

常陸大宮市や農業とは結びつかない経歴を持つ古東さんだが、
今では「コトコト野菜」と呼ばれるほど、古東さんの野菜は愛されています。

そんな古東さんに大学時代のこと、就農を決意した理由、今後の夢など
様々なお話を伺いました。

話を聞いた人:古東篤さん

古東篤さんのプロフィール
1977年12月10日生まれ。徳島県小松島市出身。
大学時代にベトナム語を学び、1年間のベトナム留学を経験。
一度は人材に関するコンサルタント会社に就職するも
東京・大阪・名古屋での転勤生活を繰り返す中で、働き方に疑問を持ち、
田舎暮らしへの憧れが増す。
奥様の実家が茨城県でだったことや
常陸大宮市で暮らす人々の温かさに触れ、2011年に就農。
現在は年間40種類以上育てる野菜を「野菜宅配セット」として、個人向けに販売している。

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大学進学からの就職。”当たり前”のレールの上を歩く自分に、疑問を抱いたサラリーマン時代

――大学時代はベトナム語を専攻し、卒業後はベトナム人材の会社でサラリーマンをしていたと伺いました。農業とは無縁ですよね。

そうですね。
まず、自分の家庭のことを話すと、自分はまちの電気屋さんを父が経営しており、その次男として生まれました。
自営業だったので、家族と普通にみんなで夕飯を一緒に食べたり、平日でも父や母が家にいることが普通で、サラリーマン家庭の現状がピンとこなかったんです。
大学進学をきっかけに大阪へ出て、周りからそういう話を聞くようになって、自分も普通に就職するんだろうなって。
むしろ当時はそれが最上の選択みたいなところもありましたから。
周りと同じように就職をしたものの、会社や組織の中で働くということが向いてないと思ったんです。
就職した会社が三大都市に拠点があって、大阪・名古屋・東京と転勤する中で、都心での生活も合わないと感じるようになりました。
特に最後に働いた東京は、逃げ場がないくらい大都市で、通勤もストレスになってしまったんです。

――なるほど。そういった中で、農業という働き方が生まれたのは何故でしょうか。

通勤もストレス、会社や組織の中で働くことも向いていない、東京で働くのも合わない……。
それはもう、転職先を探すというよりも、田舎暮らしがしたいと感じるようになりました。
その中で、選択肢として「農業」を考えるようになったんです。

▲毎日、丁寧に野菜と向き合う古東さん

疑問の先に見えた、就農するという選択肢。古東さん流の情報収集の仕方とは

――農業と関わりのない中で、どのように情報を集めましたか。

気になって、農業に関する本は少しですが読みました。
ただ、東京は情報が集まるまちで、新農業人フェアのような催しがあって、
そういう所に顔を出して、そこで知り合った人に声をかけて畑を見学させてもらったりしました。

――では、すぐに就農したというわけではないんですね。

はい、そうです。
やはり、サラリーマンを辞めるということは、とても怖くて。
今はだいぶ変わってきているかと思いますが、転職するのは落ちこぼれだとか、
転職イコール悪みたいな雰囲気が社会全体に漂っていました。
転職どころかサラリーマンを辞めて就農するって、確かに一部では、
夢の生活にチャレンジのような形で、もてはやされますが、
現実問題として、農業ですぐ食べていけるかって言ったらそれは厳しいです。
結局東京で少し働きながら、週末の日曜日だけ千葉県の流山で、
今の自分のスタイルに近い農家さんのところへお手伝いに行きました。

▲冬場の古東さんの畑の様子。サニーレタスを育てている。

――そうだったのですね。では、ある程度経験を積んでからということなのですね。

そうですね。
週に1回の日曜日だけ畑に行くのが辛かったら、
どれだけやろうと思っても続かないなと思ったので、週に1回通うことにしました。
流山の方の所へ通う中で、独立するには、
どこかで技術研修した方がいいという話になって。
サラリーマン辞めて、うちで研修したら?と声をかけていただいたので、
その話を受けて、翌年から農業研修という形になりました。

移住者を快く迎え入れてくれた、常陸大宮市の人たちの温かさに触れて

――千葉県流山市で農業研修をしたということですが、就農地はどのように探しましたか。

農業研修が終わり、どこにしようかと悩んでいたとき、
妻の実家がひたちなか市なので、東京から比較的近いなと。
就農地の候補地としては、ひたちなか市から少し北の方が土地も見つけやすいかなと思いました。
人口減少地域で中山間地域、こうした地域は行政も移住促進に力を入れていて。
今はもうなくなってしまいましたが、グリーンふるさと振興機構の窓口に相談しに行ったり。
その中で常陸大宮市やお隣の常陸太田市を候補地として考えるようになりました。

――なるほど。そういった中で常陸大宮市に決めた理由はありますか。

常陸大宮市と同じくらい常陸太田市も色々と見学をしていました。
ただなんとなく決め手がなくて。
そんなとき、本当に偶然なのですが、妻の親の知り合いの伝手で、
御前山地区のごぼう農家さんを紹介してもらったんです。
自分が農業をやりたいんですと話をしたら、
「俺のところにいくらでも農地はある、紹介してやっから!何かあったら電話すっから」と
昔ながらの茨城弁で、どんどん話を前に進めてくれました。
それから2日に1回くらいのペースで電話がかかってきて、色々な人や畑を紹介してもらいました。
そんな感じで常陸大宮市に来ることが増えたんです。
人の顔が分かったりすると、自然と愛着が湧いたり……。
ある程度、地理が頭の中に入っているという安心感もあります。
あとは、那珂川と久慈川の存在はとても大きいです。
自分にメリットがあるわけではないけれど、
あの川の雰囲気はとても好きなんですよ。

――環境もとても良いですが、何よりも常陸大宮市の人はとても温かいですよね。

本当にそうなんですよ。
移住者に対して、外者やよそ者といった扱いは全くなくて。
むしろウェルカムで笑顔で話しを聞いてくれる人が多いんです。
移住したい、畑をやりたいと言っても怪しまれることもなくて。
本当に常陸大宮市の人って温かいなと思いました。

▲野菜を育てる古東さん

愛称は、コトコト野菜!消費者と直接つながる「野菜宅配セット」

――「コトコトファーム」という屋号、可愛らしいですよね。

ありがとうございます!
古東という珍しい苗字なので、古東農園でも良かったのですが、
なんとなくありがちで可愛げがないなと(笑)
コトコトってじっくり大切にといった雰囲気もあるので、
言葉のイメージは良いかなと思って、「コトコトファーム」にしました。
おかげさまで、お客さんに”コトコト野菜”と呼んでもらえるようになりました。

――可愛らしい愛称ですね!そんな”コトコト野菜”を購入できるのは「野菜宅配セット」ですよね。「野菜宅配セット」について詳しく教えていただけますか。

農業と一言に言っても、様々なやり方があります。
自分のように40種類以上の野菜を作って、個人向けに販売している人もいれば
LEDを使ったり、コンピュータ制御で温度なども全部管理しているような所もあります。
就農前の情報集めの際に、
例えば、小松菜は種を蒔いてから収穫までとても早く、年間いくらで儲かるよ、といったような話も
聞きました。ですが、怖いと思いながら、脱サラしてまで就農しようとしているのに、
言い方が悪いかもしれませんが、野菜工場的な働き方は嫌だったんです。
有機農業では食べていけないよと、色んな方に言われましたが、
そもそも脱サラ自体、飛び降りるような覚悟でやるのだから、
自分のやりたいスタイルで挑戦した方がいいのかな……って。

▲就農時から個人のお客様へ届けている「野菜宅配セット」(画像提供:古東篤さん)

――なるほど。そういった悩みの中で、現在の農業スタイルに決めた出来事はありましたか。

農業研修をした流山市とは別になりますが、長野にある農家さんを見学したことがあって。
今の自分と同じ定期購入で宅配スタイルの農家さんで、
こういうこと言ったら悪いかもしれませんが、家も古くてお金も儲かってなさそうなんですよ。
自分が見学をした際に、定期購入しているお客さんがちょうどその農家さんのところへ来ていて。
「大変そうだから手伝いに来たよ」って言ってたんです。
農家さんも「ありがとね」って笑顔で。3歳くらいのお子さんもいらっしゃって、
お母さんとお客さんと、自分も一緒に手伝ったり、お昼を食べたり……。
そのときに農家さんが、すごく儲かるかって言ったら儲からないけど、
基本野菜は食べたいものは自分で作れるから食費はかからないし
それなりに生活していけるよって言ってたんです。
そういうのを見ていると幸せそうだなって。

――古東さんが目指していたのは、機械的でない、お客様と直接つながる農家ということでしょうか。

そうなんですよ。自分が求めていたのはまさにこれだと。
せっかく田舎にいるので、子どもも自然と触れ合って、お客様ともつながって。
そういう農家になりたいなと。
農業は儲からないって言われているけど、このスタイルで進んでいこうと決めました。

――なるほど。それが現在の「野菜宅配セット」なのですね!このセットを消費者に届ける上で大切にしていることはありますか。

有難いことに「コトコト野菜」として認識してもらってますが、
無農薬だと言っていても、届いた野菜が固くて美味しくないものだとしたら、
消費者としては、これが毎週届くんだ…と思いますよね。
やっぱり美味しいと思ってもらいたいので、どの品種においても、
どれが美味しいのかをカタログを見て調べています。
実際に選んで、作ってみて、駄目だったものは翌年は作らないようにしていますし。
あとは、美味しいということも一つの基準ですが、
少しでもバリエーションをつけるようにしています。
季節が変わらない限り、野菜宅配セットの中身が全部入れ替わるということはないのですが、
それでも少し変わった形のブロッコリーを入れてみたり、少し色のついたカブを入れてみたり……。
注文してくださっているお客さんに喜んでもらえることを一番大切にしていますね。

▲2022年、年明けの「野菜宅配セット」にも入っていたカラフル人参(画像提供:古東篤さん)

就農して丸10年。次のステージを目指す古東さん

――就農して10年が経ちましたが、改めて夢や目標はありますか。

就農当初に目標としていた、「農業で生きていく」は何とかクリアしていると思います。
だからといって生活に余裕があるというわけではありませんが……。
10年経って思うのは、現状を少し打破して、もう一つ上のステージに上がって、
自分と同じような農業スタイルの農業者を増やしたいと思っています。
この辺りの畑や田んぼは、ほっておいたら荒れていく一方で、更には人も減っていっています。
そうなると、イノシシも増えるし、管理の行き届かない里山も増えます。
やっぱり住む人がいなくなるということは、
それだけでこの辺りの地域の魅力がなくなるということなんですよ。

――なるほど。農業を通じて、地域の活性化にも取り組んでいきたいということですね。

自分と同じ、あるいは似たような農業スタイルの人を増やして
その時は、コトコトファームの看板じゃなくてもいいので、
常陸大宮市の無農薬野菜というブランドを育てていきたいと思っています。
そういったチャレンジができれば、
自分が次のステージに上がるきっかけになるかもしれませんし、
この地域の過疎化に少しでも歯止めをかけられる取り組みにもなるのではないかと思っています。

――10年経ったからこその素敵な目標ですね!この度は、お忙しいところインタビューを引き受けてくださり、誠にありがとうございました。

取材・文・写真 谷部文香

コトコトファーム・古東篤さんへのインタビューを終えて

大学時代から現在まで経緯を丁寧に答えてくださった古東さん。
就農当初から農業スタイルを変えず、お客様と直接つながることを意識し、
誠心誠意努めているからこそ「コトコト野菜」として長年愛されているのだと感じました。

また、インタビュアーである私も、古東さんのように、
普通に就職をして働くといった、いわゆる世間一般の”当たり前”の道に疑問を持ったり、
これからの働き方や生き方を模索している最中でもあるので、
自分に合った道を見つけ、実際に行動に移している古東さんを見て、羨ましくもあり、
勇気ももらえたそんな時間でした。

この場をお借りして、お忙しいところ、第3回目のインタビューを引き受けてくださり、誠にありがとうございました。

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